人の「優しさ」が引き起こす「道徳的高揚」という魔法

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やさしさ

「道徳的高揚」という言葉を知っていますか?

社会で生きていると、ふとした人々の思いやりや優しさを目撃する場面がありますよね。電車やバスでお年寄りに席を譲っていたり、困っている人を助けている風景を見たりした時、あなたが感じる暖かく曖昧な感情のことを心理学者は「道徳的高揚(moral elevation)」と呼びます。

実はこの「道徳的高揚」は人々に、より利他的な行動を選ばせる傾向があるということが最近の研究でわかってきました。少しだけ良いことを見た時に、脳と体の中では”ある動き”が行われているというのです。

 

ニューヨーク大学での研究結果

ニューヨーク大学のウォルター・パイパー教授(Walter Piper)をリーダーとする研究者チームは、被験者たちに「不幸な出来事のあとで他人をいたわる動画(道徳動画)」か、「単に面白い動画(面白動画)」かのどちらかを見せるという実験を行いました。(論文:Autonomic and prefrontal events during moral elevation.)

彼らは被験者の交感神経システム(覚醒を促進させる神経システム)がどう働くかを知るため心拍数を計測し、同様に副交感神経システム(休息を促進させる、心拍数を下げる効果もある)の活動レベルも計測しました。すると、道徳動画を見た被験者の交感神経と副交感神経の両方のシステムの活動が増大するのを観測しましたが、面白動画を見た被験者はどちらの神経システムも活性化しないという結果が出ました。

この交感神経と副交感神経システムの2つの活性化は、向社会的な方法(他人を助けることや他人に対して積極的な態度を示す行動のこと)で警戒し目覚めている必要がある間、例えば育児行為などの際に生じるということが分かっています。要するに、自ら主体的に他者を助けようとした時に、交感神経と副交感神経の2つが活性化する(覚醒とリラックスが同時にある)ということです。「道徳的高揚」は同様のパターンに含まれており、研究結果の内容とも一致しています。

そのメカニズムは次のように成り立っています。私たちが思いやりのある行動を見るためには、まず辛いことを見る必要があり、そしてそれがストレスになる必要があります(そして交感神経が活性化する)。しかし一旦、利他的な行動によって辛いことが緩和されるのを見れば、副交感神経によって我々の心は穏やかになり、ストレスを過去のものにして喜びや暖かい感情が芽生えるということです。緊張によるストレスと、ストレスからの解放によって「道徳的高揚」が起きるのです。

 

「道徳的高揚」は連鎖する?

「ペイ・フォワード 可能の王国」という映画をご存知でしょうか?

ラスベガスに住むアルコール依存症の母と、家を出て行った家庭内暴力を振るう父との間に生まれた、少年トレバー。

中学1年生(アメリカでは7年生)になったばかりの彼は、社会科の最初の授業で、担当のシモネット先生と出会う。先生は「もし自分の手で世界を変えたいと思ったら、何をする?」という課題を生徒たちに与える。生徒達のほとんどは、いかにも子供らしいアイディアしか提案できなかったが、トレバーは違った。彼の提案した考えは、「ペイ・フォワード」。自分が受けた善意や思いやりを、その相手に返すのではなく、別の3人に渡すというものだ。

トレバーはこれを実践するため、“渡す”相手を探す。仕事に就かない薬物中毒の男、シモネット先生、いじめられている同級生…。 いろいろと試みるものの、なかなかうまくいかず、「ペイ・フォワードは失敗だったのではないか」とトレバーは思い始める。しかし、トレバーの気づかないところで、このバトンは次々に受け渡されていた。

wikipedia 「ペイ・フォワード 可能の王国」

まだ映画を見ていない方のためにネタバレは避けますが、上に書いてあるように「善意」というテーマが根幹にある作品です。自分が他者から受けた善意を、他の三人に渡していくことができれば、世界は幸せに変化するのではないか?という少年の考え。これは「道徳的高揚」の連鎖を示しているといえます。映画の中の結末は見てからのお楽しみですが、これは私たちの生活の中にも起こりえるといえるのでしょうか?

性善説、性悪説と、人間の性質を定義する考え方は色々ありますが、人間はそもそも「善」であるか「悪」であるか分かりませんが、人間は他者の良い行いを見て、自分の気持ちを穏やかにすることができる生き物であることは間違いありません。「良いこと」というとこれ見よがしな感じがして敬遠する人もいるかもしれませんが、自身の体や脳にとって「快」であることを選択することは自分にとっても良いことです。「働く」ということも直接・間接的に人の幸せに関わることに繋がります。

そもそも日本では「恩送り」という考え方が江戸時代からあったということが知られています。「恩送り」とは、「誰かから送られた恩を第三者に返す」ということ。先輩から受けた恩は後輩に、親から受けた恩は子どもに、他者から受けた恩は別の誰かに送れば、社会に正の連鎖が起きる。私たちは「道徳的高揚」が社会を良くするということを、また、私たち自身にとっても良いということを文化的に知っているのです。

この「道徳的高揚」という感情は、私たちに「恩送り」や「pay it foward(先払い)」という動機を与えるくらい、私たちの心を穏やかにします。もし、あなたのもとに「道徳的高揚」がやってきていないというならば、あなたからスタートしてみてはいかがでしょうか?

ソース:What Happens in Your Brain and Body When You Witness Human Kindness / science of us(NY mag)

翻訳:N.Y

文責:竹中辰也

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